フェーズ4:集団分析


 労働者のストレスチェック(検査)が終わってから行う集団分析について説明します。

 集団分析(または集団的分析、等)は、検査結果データを全て把握している実施者が行います。引き続き、個人情報の保護に注意を払いながら進めていきます。

 事業者にとっては、次年度までに自分たちの職場をどう改善できるかの手掛かりを得る、大事なステップです。どのような分析を行うかについて事前に衛生委員会等で審議し、実施者と情報を共有しておくのがよいでしょう。
 また、集団分析結果には個人情報を含まないものの、結果によっては特定の部署の(悪い)状態が目立ってしまうことも起こり得ます。社内での共有範囲や閲覧権限についても、あらかじめ衛生委員会等で審議しておくとよいでしょう。


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集団分析の方法


「仕事のストレス判定図」を用いる方法

 集団分析に際しては、ストレスチェック(検査)項目として「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)または簡略版(23 項目)を使用した場合は、その分析方法として公開されている「仕事のストレス判定図」を用いることが適当とされています(厚労省マニュアル 印刷表記「-84-」ページ)。

 判定図は2種類あります。それぞれに全国の労働者の平均値がプロットされており、自社の値を計算してプロットすることで比較できます。色がついた部分は平均を超える状態で、濃くなるほど危険です。もし、自社の値がこの領域にプロットされる場合は注意が必要です。


 なお、「仕事のストレス判定図」を用いた分析方法については、厚労省マニュアル「-86-」~「-87-」ページ(印刷表記)に解説されているほか、東京医科大学公衆衛生学分野ホームページの「職業性ストレス簡易調査票」の項に説明が掲載されています(» 「仕事のストレス判定図」説明サイト




集計人数が少ない場合

 上記の方法に従って集計された結果には個人情報は含まれないものの、集計人数が少ない場合には個人が特定できてしまう可能性が残ります。

 厚労省マニュアルでは、原則として集計人数が10人未満の場合、実施者は集計結果を事業者に提供してはならないとされています。10人未満の集計結果を事業者に提供できるのは、対象となる労働者の全員が自分のストレスチェック検査結果を事業者に提供することに同意している場合に限ります(厚労省マニュアル 印刷表記「-84-」~「-85-」ページ)。
 検査結果を事業者に提供することに労働者が同意するタイミングは検査結果を通知されたときと、面接指導を申し出たときです。なお、同意しないと意思表示をした労働者に対して同意を働きかけることは禁止されています(厚労省マニュアル 印刷表記「-107-」ページ)。

 集計人数が10人未満の場合は、より上位の大きな集団単位で集計・分析を行うこととされています。どのような単位で集計するか、実施者と事業者との間であらかじめ取り決めておくか、都度協議して決める必要があります。
 なお、複数の部署が合算されて大雑把なまとまりでしか社内のストレス状況を把握できないと、職場改善を行うにも的が絞れず効果的な策が打てないことも起こり得ます。せっかく実施したストレスチェックを生かし、よりよい職場環境を実現するためにも、集計方法については十分に協議してください。


受検人数が少ない部署がある場合の集団分析結果の提供パターン



集団分析結果を活用した職場改善のノウハウ


対策例

 集団分析の方法として取り上げた「仕事のストレス判定図」において、「量-コントロール判定図」から分かるのは「仕事の量的負担」と「仕事のコントロール」の2要素。「職場の支援判定図」から分かるのは「上司の支援」と「同僚の支援」の2要素でした。

 現状、この材料のみで職場改善対策を考えるのは難しいかもしれませんが、例を挙げると以下のとおりです。

項目対策例
「量-コントロール」関連
  • 人員の補充(分散による、個々人の負担軽減)
  • 人材育成 (個々人の能力向上による負担軽減)
  • 業務フローの見直し
    例:工程を分割し、類似作業はまとめて処理する
    例:納期交渉の余地を設け、作業が集中するのを避ける
「職場の支援」関連
  • 孤立しにくい状況をつくる(1つの作業は2人以上で担当)
  • 定期ミーティングでコミュニケーションを促す(上司と部下、部下同士)

 より具体的な施策は自らの職場に即して考える必要があります。


 また、集計する単位を工夫することで課題を発見できる場合あります。
 例えば、年代別、男女別、中途入社、正規・非正規、などの単位で集計し、これを部署別などの単位で集計した結果と突き合わせることで課題を発見できる場合があります(個人の特定につながらないよう注意しましょう)。
 あらかじめ、集計方法の検討に際に実施者との間で取り決めておくのがよいでしょう。


 もうひとつ、参考までに「仕事のストレス判定図」だけでは不足する材料を補うものとして厚生労働省が提供する『こころの耳(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)』のコンテンツである『職場改善マニュアル』を紹介します。

職場改善マニュアル »
こころの耳(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)へリンク

 この『職場改善マニュアル』に改善策そのものは記載されていませんが、一般的な事項を網羅するチェックリストに答えていくことで、自分の職場に合った改善策を見つけていくヒントが見つかります。




〔参考〕集団的分析は、なぜ「努力義務」なのか?


 現状、ストレスチェック結果の集団的分析は「努力義務」とされています。一見「やっても、やらなくてもよいこと」とも受け取れますが、どういうことなのでしょうか?。

 集団的分析を含め、ストレスチェック制度が創設される過程については「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度に関する検討会報告書」(平成26年12月17日 厚生労働省労働基準局安全衛生部/「ストレスチェックと面接指導の実施方法等に関する検討会」/「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取扱い等に関する検討会」)に、検討内容や経緯が記されています。(以下、「検討会報告書」と呼称します。ダウンロードはこちら » )

 努力義務について検討会報告書では『この場合の努力義務は、集団的分析の実施の必要性や緊急性が低いことを意味するものではなく、事業者は、職場のストレスの状況その他の職場環境の状況から、改善の必要性が認められる場合には、集団的分析を実施し、その結果を踏まえて必要な対応を行うことが自ずと求められることに留意するべきであること。』(印刷表記「13」ページから引用)としており、「努力義務」とは「やってもやらなくてもよいこと」ではなく「必要であればやるべきこと」を意味するものと思われます。

 その一方で、集団的分析自体があまり普及していないことも、検討会報告書では認めています。
『(中略)・・・現時点では集団的分析が広く普及している状況にはなく、手法が十分に確立・周知されている状況とも言い難いことから、まずは集団的分析の実施及びその結果に基づく職場環境の改善の取組を事業者の努力義務とし、その普及を図ることが適当。』(印刷表記「13」ページから引用)
 こうした状況から「努力義務」という表現に落ち着いたようです。

 実際、「仕事のストレス判定図」による分析結果は職場の改善対策を立てる材料としては不十分と見受けられます。今後、検討委員会(厚生労働省)から、さらに詳しい分析方法や改善対策立案についてのガイド等が出ることが望まれます。企業においては毎年きちんと集団的分析を行い、結果を残しておけば、後々有効活用できるかも知れません。

 また、検討会報告書では『国は集団的な分析手法の普及を図るとともに、その普及状況などを把握し、労働安全衛生法の見直しに合わせて、改めて義務化について検討することが適当。』(印刷表記「13」ページから引用)と述べられており、「努力義務」から一歩進んだ「義務化」への含みも残された形になっています。留意しておくとよいでしょう。


補 足

 厚労省が2017年7月26日にストレスチェックの実施状況について公表しました(こちら)。
 公表された資料によれば、ストレスチェックを実施した企業(事業場)の約8割が集団分析を実施しています。(「別添 ストレスチェック制度の実施状況(PDF:205KB) 」)。

 なお、この資料には、事業場の規模別に集団分析を実施したかどうかの割合が掲載されているのみです。点数等についての平均値の公表が待たれるところです。



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